不肖の5代目
ローマ帝国|5代目皇帝・ネロ
以前見たテレビで印象に残るものがありました。
TVはあんまり見ない人なのですが、たまたま時間がぽっかり空いたんですね。
内容は、ローマ帝国をあつかった特集の番組で、
1 日本のスタジオで収録した司会者と番組参加者、
2 日本のタレントがレポーターとして取材したローマの映像、
3 BBC(だとおもう)の大河ドラマらしきローマ帝国の歴史のドラマの映像、
の3つで構成されている番組でしたね。
構成は、塩野氏の「ローマ人の物語」が下敷きになっているらしい。
BBCの作成した映像が、黒澤映画のようにすばらしすぎて、日本のレポーターや司会やゲストの芸能人や、ときおりでてくる漫画が邪魔でしょうがなかったですね。どうせなら、BBC製作のローマ帝国の歴史の大河ドラマを、フルで、ノーカットで字幕でみていたかったですね。
ローマ帝国建国者ロムルス、敵将ハンニバル、天才カエサル、そして、暴君ネロ、と続くのですが、配役の役者さんも、書籍で得るイメージどおりの姿かたちで(カエサルはちょっと違ったけど)、配役を選ぶ人にプロのセンスを感じました。
コネとか人気とか無視して監督自ら配役を選んだ黒澤監督の影武者もそうでしたね。織田信長とか、特に徳川家康とか本多正信なんか、戦国時代から本人つれてきたような錯覚をおこしました。
実際の肥満した彫像が残っている5代目皇帝のネロを、小柄でやせたネロ役の俳優が演じていたのですが、未発達な精神のままスポイルされた人間を、うまいこと演じてましたね。元老院で「みんなうそつきだ」とさけぶ若者はネロ以外にありませんでした。
ギリシア文化のマニアで、忍耐力がなくて、楽しいことにのみ一生懸命。
知識はあるが知恵が浅い苦労をしらないマザコンの若者。
それがネロだったようです。
莫迦の一生懸命は可愛いけど、問題は本人が最高権力者だと、やはり困る。
困ることが続いて、元老院が辛抱しきれず、結局帝国からリコールされてしまったネロ。
歌手になりたくて舞台に立ったこともあるネロの人生は、帝国に見捨てられて自殺することで幕を閉じます。
徳川幕府|5代目将軍・綱吉
日本では、リコールはされませんでしたが、真面目に莫迦なことをする、という点で「犬公方」綱吉がいますが、この人も5代目なんですね。
慈悲を示しましょうね。戌年の生まれだから、犬を大事にしたらどう?
と、えらい坊さんにいわれて思いついたのが、生類哀れみの令。
生き物を殺してはならないという、殺したら死刑、流罪という、動物保護のブラックジョークみたいな法案だが、真面目に施行されたのである。
犬を人間以上に大事にしたため、人間の人権が危うくなった悪名高き法でした。
徳川官僚も、市民も、公方のだした莫迦みたいな法案を、綱吉がなくなるまで真面目にまもりました。
5代目の意味
ただ、ネロも綱吉も、あんまり嫌われていない(とおもう)。
2人の名を口にするとき、嘲笑ににた韻がどうしても唇に含む。
収容所をつくったり、人間を粛清しまくったヒトラーとかスターリンとか、中世に魔女狩りしまくった審議官とか、現代の猟奇殺人者や大量殺人者とは、あきらかに違う暴君として受け止めていると思う。
ようは、この2人は、パロディーなんだろうな。
綱吉は、融通のきかない笑わない江戸の武家官僚の、そして、ネロは法律国家ローマの、逆さ鏡にうつった姿なのかもしれませんね。
平和な後期昭和のドリフターズの爆発ギャグと同じかもしれません。
ともに、帝国が繁栄の頂点にいたときの君主でもあったので、無駄をする余裕があったのかもしれませんね。
ネロが君臨した時代の帝国も、綱吉の統治した元禄も、発展し続けると疑いを持たない時代でした。
勝ち続けるギャンブルというのも、ある意味、悪夢でしょう。忘れるために、諧謔は必然だったのかも。
たとえ、それが、無生産、無意味であったとしても。
ともに不肖の5代目。
5代目って、家系において、そういう人がでてくる数なのかも。
以上